母方の祖母は、和裁が得意な人だった。
いつも着物を着ていて、きれいなおばあちゃんは、自慢で大好きな優しい人だった。
夏前にいつも浴衣を縫ってくれた。
「大きくなったね~」と言いながら、優しい笑顔でサイズを測ってくれる時間がとっても好きだった。
母が戻って、しばらくは落ち着いた日々が続いていた。
そして今年も、お祭りの季節になり、祖母が縫ってくれた真新しい糊のきいた浴衣を着て
母と弟達と出かけた。
肌に当たる浴衣が気持ちいい。
色とりどりのヨーヨー釣り、甘いにおいの綿菓子、赤くてキラキラのりんご飴、
ソースの焼けるにおいが食欲をそそる焼きそば、たくさんのキャラクターが並ぶハッカパイプ
赤や黒の金魚すくい、大きく膨らむシャボン玉・・・
たくさんのキラキラした出店が並んでる。
色々なにおいが混じり、ワクワクしながら歩いていく。
おなかを壊すといけないからと、出店で食べ物を買うのを許されたものは、綿菓子だけだった。
それでも綿菓子は大好きだった。甘く、ふわっと口の中で優しく溶ける・・・
それだけで、とっても幸せな気持ちになった。
金魚すくいもさせてもらった。なかなか上手にすくうことがことができず、見かねた母が金魚をすくってくれた。
ビニール袋に金魚が2匹、大事に持って帰った。
家に帰ると、お酒に酔った父がいた。見つかるとまた、何をされるかわからなかった。
母はあわてて私達を、棟の違う父の診療所に隠れているように言った。
私達は、足がすくんで動けなかった。母に誘導され、父に見つからないように電気もつけず、みんなで息を殺して父が静かになるのを待った。
目に見えぬ恐怖に震えながら、早く朝が来ることを願った。
朝になれば、父の酔いもさめる
きっと優しいパパに戻る・・・そう願いながらいつの間にか眠っていた。
いつかきっと、優しいパパとママがいて、家族みんなで食卓を囲み、いつも笑顔で安心して暮らせる時が来るはず。今、我慢すればきっとそうになるはず・・・・
きっといつかは・・・・
きっと・・・きっと・・・・
コメント